東京地方裁判所 昭和32年(ワ)9622号 判決
原告 森地八重
右代理人弁護士 上床将
被告 塩出英雄
右代理人弁護士 下村栄二
同 山本政雄
右復代理人弁護士 加藤康夫
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
本件家屋の所有者が訴外宮尾昭利であること、同人は先代亡宮尾利平が死亡当時未成年者であつたこと、直接交渉のあつた経緯は別として昭和一七年四月一〇日宮尾利平が貸主となり、被告に賃料一ヵ月五〇円、期間の定めなく本件家屋を賃貸し、被告は敷金として金一五〇円を差入れたこと、宮尾利平、宮尾文及び森地正が死亡したこと及び昭和三一年一〇月一日以降被告が賃料を支払わず、原告から書留内容証明郵便を以て催告をうけたが指定された期日までに延滞賃料を支払わなかつたこと及び本件家屋の賃貸人が現在訴外宮尾昭利であることは当事者間に争いがない。
原告は本件家屋の所有者であり、かつ賃貸人である訴外宮尾昭利から与えられた総括的な管理権に基いて本訴請求をしているから、原告の当事者適格について判断するに、証人宮尾昭利の証言によれば、原告の受任範囲は本件家屋賃貸借の一切の事項に及ぶものであることは認められるが、法律上他人の財産について管理権を有する場合ではなく、従つて、本件の場合は任意的訴訟担当にあたるが、任意的訴訟担当は弁護士代理の原則を潜脱し、また訴訟信託の禁止の趣旨にも牴触するので、これを認めることは出来ないから、原告に当事者適格を認めることはできない。
以上の次第で原告の本件訴は不適法であるから、爾余の判断をまつまでもなく、これを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 岡松行雄)